ラジオホームドクター

診療科 出演者 放送日 テーマ
【産婦人科】 いずみレディスクリニック
三鴨 廣繁
(みかも ひろしげ)
4月25日
木曜日
女性の下腹部痛
4月26日
金曜日
帯下の異常

女性の下腹部痛

 女性の場合、下腹部が痛むときは、胃や大腸などの消化器の病気とは別に、子宮や卵巣などの異常も疑う必要があります。なかでも、子宮筋腫は婦人科の腫瘍のなかでは最も多い病気で、30〜40歳代の約3人に1人の割合でみられます。

 子宮筋腫は、女性ホルモンのエストロゲンの働きによって大きくなる良性の腫瘍で、腫瘍性病変ができる場所によって3つのタイプに分けられます。子宮の筋肉の中で大きくなった「筋層内筋腫」、子宮の外に飛び出した「漿膜下筋腫」、子宮内側の粘膜に向かって発育した「粘膜下筋腫」です。このうち、下腹部痛を起こしやすいのは、「筋層内筋腫」と「漿膜下筋腫」です。どちらも、筋腫が大きくなるにしたがって周りの臓器を圧迫するため、下腹部痛の原因になります。また、直腸を圧迫すると便秘症に繋がり、膀胱を圧迫すると頻尿、神経を圧迫すると腰痛を起こします。「筋層内筋腫」や「粘膜下筋腫」では、子宮の内腔が変形して月経の出血量が増加します。そのために、貧血になることがあり、動悸や息切れなどのいわゆる貧血症状を伴うこともあります。

 最近、特に、若い女性に増加傾向にある子宮内膜症も下腹部痛の原因となります。子宮内膜症は、月経ではがれる子宮の内側の子宮内膜、あるいはそれとよく似た組織が子宮以外の場所にできてしまい、エストロゲンの刺激によって増殖する病気です。10代後半から20歳代で発症することがあり、30歳代前半に最も多くみられるのが特徴です。

 子宮内膜症ができやすいのは、子宮と直腸の間にあるダグラス窩と呼ばれる部位と卵巣で、月経時にはそれらの部位に存在する子宮内膜が子宮の中に存在する内膜と同じようにはがれて出血します。子宮内に子宮内膜があれば体外へ排出されるものが、ダグラス窩や卵巣に子宮内膜が存在する場合、排出経路がないため体内にたまって、強い痛みを引き起こします。最も多いのは、月経時の下腹部痛や腰痛ですが、約半数は月経時以外にも下腹部痛を訴えています。また、子宮内膜症がダグラス窩に存在すると排便痛を起こしたり、性交時にひびくような痛みを伴う場合もあります。まれに、胸膜や肺、腸管、尿路などに発生すると、月経時に気胸や血痰、血尿、下血などの症状を認めることもあります。

 子宮内膜症は妊娠・出産をきっかけに治ることも多いのですが、妊娠を経験しないで月経を繰り返していると悪化する危険性が高まり、放置すれば進行して不妊の原因にもなり注意が必要です。

 子宮内膜症と似た病気で、30歳代後半に多く発症するのが、子宮内膜が子宮の筋肉にもぐりこむ子宮腺筋症です。子宮腺筋症の場合には、月経痛がとても強く、月経後にも痛みが続くことも少なくありません。

 月経とは関係なく、下腹部に急激な痛みが起きた場合は、卵巣腫瘍が疑われます。腫瘍がある程度の大きさになると、腫瘍がねじれ、激烈な痛みを起こすこともあります。

 卵巣腫瘍の主な症状は、下腹部痛のほかに腹部膨満感、性器出血、便秘、頻尿などさまざまです。腫瘍が大きくなった場合は、スカートのウエストがきつくなって気づくこともありますが、卵巣腫瘍のサイズがかなり大きくなってからでないと症状が出てきにくいため、発見が遅れがちです。そのため「サイレントキラー」とも呼ばれることがあります。ちなみに、卵巣腫瘍には良性、悪性、その中間タイプとさまざまな種類があります。

 子宮や卵巣の病気は、日常生活での予防が難しいものが少なくありません。重症化させないように、また発見が遅れないように、定期的に婦人科検診を受けましょう。また、異常を感じたら早めに婦人科を受診し、腫瘍などの有無を確認することが大切です。

 このほかに、クラミジア・トラコマチスや淋菌などの性感染症によって下腹部痛が引き起こされることがあります。クラミジアや淋菌は、はじめは子宮頸管に感染しますが、自覚症状を認めないケースが多いのが特徴です。したがって、放置すると次第に上行性感染により進展し、クラミジア腹膜炎や肝周囲炎を引き起こすことがあります。特に、肝周囲炎まで達すると、緊急手術に至る場合もあり、性感染症に罹患する機会があった場合には、恥ずかしがらずに積極的に産婦人科を受診して検査を受けることも必要です。

帯下の異常

 帯下とは、いわゆる「おりもの」のことで、腟からでる分泌物を指します。帯下の性状(粘液状、のり状、液状など)、色調(透明、半透明、色つきなど)、におい(正常、無臭、悪臭など)はさまざまです。

 女性にとっては、帯下はきわめて一般的な症状です。通常、子宮頸管腺から透明な粘液が分泌され、腟内に存在する細菌、剥離した腟の上皮細胞やバルトリン腺からの分泌物と混じり合って排泄されます。混じり合う内容物によって、粘液が白っぽい色の帯下に変わり、空気に触れると黄色っぽい色に変わることもあります。月経周期の間には、エストロゲンの分泌量に応じて、子宮頸管腺からより多くの分泌物が出るときがありますが、この状態は正常です。女性が「帯下感」を自覚するという時には、「不快感」を感じる程度に腟からの分泌物が増量していることが一般的です。この「帯下感」には個人差がありますから、実際の量と必ずしも一致していません。

 一般に、女性の帯下は、性的な興奮や精神的ストレスなどでも増加します。このような場合は、透明で粘液状の分泌物が出ることになります。

 帯下の色調、におい、性状が異常であったり、帯下の量が極端に増加または減少した場合には、何らかの病気にかかっている可能性があります。性感染症が原因となって分泌物が異常になった場合は、性交のパートナーも同時に治療を受ける必要があります。

 異常な帯下を認める原因としては、特定の原因菌がなく腟内の常在菌が異常増殖した結果起こる細菌性腟症、タンポンの抜き忘れなど異物がある場合、気管支炎などの治療後に真菌感染の一種であるカンジダが腟内で異常増殖して起こるカンジダ腟炎、性感染症である性器クラミジア感染症、淋菌感染症、腟トリコモナス症など、ご高齢の女性に一般的な病気である萎縮性腟炎などがあげられます。

 これらの中で、細菌性腟症は「万病の元」と言われます。細菌性腟症を放置すると、上行性感染により、子宮内膜炎や子宮付属器炎などに進展し、重症になると骨盤腹膜炎にまで進行することもあります。妊娠中の流産・早産の多くが、細菌性腟症が原因であることもわかっています。細菌性腟症は、はじめのうちは薄く、灰色の帯下をきたすだけで、自覚症状に乏しい場合も多く、放置されがちですが、「万病の元」であることを忘れてはいけません。少しでも帯下の異常を感じたら、恥ずかしがらずに産婦人科を受診することも重要です。

 腟を清潔にすることで、異常な帯下の原因のいくつかを予防し、帯下を除去することができます。しかし、腟の洗浄を行うかどうかについては、自己判断せずに産婦人科医に相談してください。腟内には、デーデルライン桿菌とも呼ばれるラクトバチラス属という名前の善玉菌が多く存在しており、これらの菌が腟内の感染防止のために働いています。頻繁に腟内を洗浄しすぎると、感染防止のために膣内に常在する善玉菌のラクトバチラス属まで除去されてしまう場合もあり、注意が必要です。

 先にお話しましたが、性感染症による帯下の場合は、性交のパートナーもたとえ症状がなくても診察を受ける必要があります。症状がなくても、多くの菌が体内に侵入している可能性があります。もし、パートナーが診察を拒否した場合には、性行為により再感染が続き、クラミジアなどでは放置しておくと、将来の生殖能力が低下するおそれもあります。

 痒みを伴う帯下を自覚することもあります。このような場合の帯下は、白色クリーム状であったり、酒かす状であったりする場合が多いようです。痒みを伴う帯下を自覚する場合には、直前に風邪をひいていたとか、かなり疲れていて体調が悪かったというような既往があることが多いと思います。このような患者さんは、カンジダ症と診断されることが多く、薬物療法が必要なので、我慢したり、薬局で市販薬を購入して直そうとしないで早めに産婦人科を受診されたほうが良いと思います。

 帯下が、「泡っぽい」と感じる場合には、腟トリコモナス症が疑われます。腟トリコモナス症は、トリコモナス原虫という寄生虫による疾患で、飲み薬による治療が必要です。

 しかし、帯下という症状を起こすもっとも恐い病気は、子宮がんによるものです。子宮頸がんの場合、まずは不正性器出血があり、次に異常な帯下があります。膿性、血性、肉汁様などさまざまな帯下がみられます。がんが進行すると独特のにおい、いわゆる腐敗臭が強まることから、注意が必要です。